公開日:2026年3月30日

「NHK日曜美術館50年展」(東京藝術大学大学美術館)レポート。ギネス認定の長寿番組、半世紀の美の軌跡をたどる

ロダン、ピカソ、ジャコメッティ、松田権六、石田徹也、岡本太郎、舟越桂、諏訪敦の作品が一堂に会する大規模展覧会。会期は3月28日~6月21日

「日曜美術館」がギネス世界記録に認定

1976年の放送開始から2500回を超える長寿番組となったNHKの美術番組「日曜美術館」。その50周年を記念する展覧会「NHK日曜美術館50年展」が、東京・上野の東京藝術大学大学美術館で開幕した。会期は3月28日から6月21日まで。

東京会場の会期終了後は、7月18日〜9月27日に静岡県立美術館、10月10日〜12月20日に大阪中之島美術館で開催される。

開幕に先立つ3月22日の放送をもって、同番組は「週間ファインアートテレビ番組の最長放送(Longest running weekly fine art TV Programme)」としてギネス世界記録に認定。3月27日に開催された取材会にて公式認定証が授与された。当日は本展覧会の音声ガイドナビゲーターである俳優の井浦新と、現在番組の司会を務めているミュージシャンの坂本美雨が登壇した。

3月27日に行われた公式認定証授与の様子。左から井浦新、坂本美雨

本展では、番組を彩ってきた120点を超える名品を5章構成で紹介するとともに、過去の放送から厳選された出演者の言葉を映像で上映。さらにパブロ・ピカソの傑作《ゲルニカ》の原寸大高精細映像も組み合わせながら、番組が歩んできた半世紀の軌跡をたどる。ここでは本展の見どころを各章ごとに紹介していきたい。

時を超えて美を語る言葉とともに

「日曜美術館」は1976年4月、「私と〇〇」という企画でスタートした。各界の第一線で活躍するゲストが、敬愛する作家や作品への思いを語るという形式で、美術の専門家に限らない多様な語り手が「美の語り部」として番組に登場してきた。

第1章ではそうした語りと作品の関係を軸に展示が展開される。作家・大江健三郎が向き合ったフランシス・ベーコンの絵画、彫刻家・舟越保武が注目する松本竣介の作品、モデルとなった矢内原伊作が語るアルベルト・ジャコメッティの彫刻など、語り手の言葉とそれぞれの作品が並ぶ。同じゲストが30年後に同じ作家を再び語ることがあるなど、時代を経ても繰り返し取り上げられてきた名品も多く、その変わらぬ求心力を改めて体感できる章となっている。

また、本展の動線にも注目したい。展示は地下からスタートするが、第1章の後半は同フロアの反対側ではなく、3階へと続く構成になっている。地下にはロダン、ジャコメッティらの作品が並び、3階には岸田劉生や石田徹也らの絵画作品などが展示される。

日本の美の再発見と伝承

日本美術の評価は、時代や見る者の視点によって大きく変化してきた。たとえば縄文の美は岡本太郎に再発見され、江戸の奇想絵画は美術史家・辻惟雄による評価を経て広く知られるようになった。「日曜美術館」は放送初期から葛飾北斎や伊藤若冲を取り上げきたが、2016年に東京都美術館で開催された「生誕300年記念 若冲展」では空前の行列が生まれるなど、日本美の再評価を象徴する出来事をなった。

第2章では、縄文土器・土偶、伊藤若冲、曾我蕭白、葛飾北斎などの名品が集まる。さらに村上隆、大野一雄、井浦新ら現代の語り手の言葉とともに作品を紹介することで、それぞれの時代における「再発見」の文脈を浮かび上がらせる。

工芸も、「日曜美術館」が放送開始以来一貫して取り上げてきたテーマだ。1976年の「日本伝統工芸展」を皮切りに定期的に工芸美術を紹介し、正倉院の宝物をはじめ、各時代を代表する職人たちの作品と制作映像が番組に蓄積されてきた。

第3章では、松田権六、室瀬和美、森口華弘・邦彦、安藤緑山、塩見亮らの名品を紹介。後に人間国宝となる職人たちの若き日の制作風景や、親から子へと受け継がれる技の記録も映像で上映される。近年の超絶技巧への注目を踏まえた構成となっており、伝統の継承と各時代における革新の両面から日本工芸の魅力に迫る。

災いを描いてきた美術

長寿番組には時代の変化が刻まれ、時代とともに変化することが大切となる。たとえば、2020年のコロナ禍では美術館が全国的に休館し、番組の継続も困難な状況となった。「日曜美術館」はこの時期、過去の放送映像を活用した「蔵出し」シリーズや、困難なときにこそ分かち合いたい作品を紹介する「#アートシェア」と題した企画を展開。なかでも「疫病をこえて 人は何を描いてきたか」をテーマにした特集は、美術が人間の危機とどのように向き合ってきたかを改めて問い直す機会となった。

第4章では、太平洋戦争とシベリア抑留時の体験をもとに制作を続けた香月泰男、原爆の痕跡を写真に記録した石内都、長く生と死の主題と向き合ってきた野見山暁治らの作品を展示。さらに、パブロ・ピカソの傑作《ゲルニカ》の原寸大高精細映像も会場に現れ、戦争と美術の関係を視覚的なスケールで体験できる構成となっている。

作家のアトリエで語れる美の哲学

「日曜美術館」は歓喜や苦悩、葛藤、孤独といったあらゆる感情が交錯する作家のアトリエにも注目してきた。1980年から始まった「アトリエ訪問」シリーズでは、多くの作家の創作現場が記録されてきた。最終章となる第5章では、このシリーズの映像アーカイヴを軸に、制作の過程で作家が語った言葉とともに作品を紹介する。

岡本太郎、柚木沙弥郎、志村ふくみ、加山又造、舟越桂、諏訪敦、山口晃など、多彩な作家たちの制作現場が映像で紹介される。整然とした工房もあれば、素材や道具が溢れる空間もあり、それぞれのアトリエが作家の個性を映し出す。さらに制作の只中で語られた言葉には、美術論や技法解説にとどまらない、各作家の思想や世界観も刻まれている。映像作品の鑑賞には相応の時間を要するため、余裕を持って訪れることをおすすめしたい。

灰咲光那(編集部)

灰咲光那(編集部)

はいさき・ありな 「Tokyo Art Beat」編集部。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。研究分野はアートベース・リサーチ、パフォーマティブ社会学、映像社会学。