クロード・モネ 戸外の人物習作-日傘を持つ右向きの女 1886
東京・京橋のアーティゾン美術館で、「クロード・モネ ― 風景への問いかけ」展が開催されている。本展は、クロード・モネ没後100周年という節目にあわせて企画された記念展で、オルセー美術館、日本経済新聞社、NHKの共同主催によって実現した。会期は2月7日から5月24日まで。
印象派を代表する画家モネは、自然光の移ろいに着目し、その美しさを絵画として表すことを生涯にわたり試みた。屋外制作を重視し、同一のモチーフを異なる時間帯や季節のもとで繰り返し描く手法は、19世紀後半の風景画の表現に大きな変化をもたらした。


モネは、ル・アーヴル、アルジャントゥイユ、ヴェトゥイユ、ジヴェルニーなど、各地を移り住みながら制作を行い、それぞれの土地の光や空気、環境の変化を作品に取り込んできた。本展では、こうした制作地と時代に着目し、モネの画業をたどっていく。
展示は、モネの作品41点を含むオルセー美術館所蔵作品約90点に、国内の美術館および個人所蔵作品を加えた合計約140点で構成される。
本展の見どころのひとつは、全11章にわたる展示構成にある。初期から晩年までを単純に年代順で追うのではなく、制作地や時代背景に加え、「モチーフとの距離」「写真」「都市」「ジャポニスム」「反復」「映像」といったテーマを軸に、クロード・モネの制作が紹介されている。各章では主題や表現方法ごとに作品が構成され、制作環境や関心の変化を多角的にたどる。

次に挙げられるのは、修復後初公開となる《かささぎ》を含む、日本初公開作品の公開。オルセー美術館から貸与されたモネ作品41点のうち15点が日本初公開となり、これまで国内では紹介される機会の少なかった作品が含まれている。日本初公開作品には、1870年制作の《トルーヴィル、ロシュ・ノワールのホテル》や、1873年の《昼食》などが含まれ、初期から中期にかけての制作を具体的に示す作品群が紹介される。



絵画作品にとどまらないジャンル横断的な展示内容も見どころだ。本展では、同時代の絵画や写真、浮世絵、アール・ヌーヴォーの工芸作品に加え、現代の映像作家 アンジュ・レッチア による、モネへのオマージュとして制作された没入型の映像作品も展示される。これらをあわせて紹介することで、モネの制作が同時代の視覚文化や、異なる表現領域とどのような関係のもとで展開していたのかが示されている。


展示の前半では、1860年代にノルマンディーやフォンテーヌブローで制作された初期作品が紹介される。モネはアトリエを離れ、自然のなかで制作を行い、光や天候、時間帯による変化を画面に取り込もうとした。屋外制作によって、一定の条件のもとで完成させる従来の制作方法とは異なり、刻々と変化する環境のなかで、時間の移り変わりを写し取る姿勢がうかがえる。こうした初期作品は、自然を直接観察することが制作の基盤となっていたことを伝えている。


中盤では、アルジャントゥイユやヴェトゥイユなどで描かれた作品を通じて、近代化が進む時代の風景が取り上げられる。鉄道網の発達によって移動範囲が拡大したことや、都市と郊外を行き来する生活環境の変化が、制作地や主題の選択にも影響を与えていたことが提示される。都市の祝祭的な情景や工業化の進む河岸の風景などが、田園や水辺と同様に描かれ、自然と近代生活が同じ画面のなかで扱われている点が特徴だ。


修復後初公開となる《かささぎ》を中心とした雪景色の章では、雪の表現に注目が集まる。白を基調としながらも、青や紫など複数の色調を用いて描かれた雪景色は、光の状態や周囲の環境によって変化する風景のとらえ方を示すものとして紹介されている。雪という主題を通じて、色彩や光の扱いに対するモネの関心が浮かび上がる。


また、本展では写真とモネの関係を扱う章が複数設けられている。モチーフや効果、反射、夢想的な風景といったテーマを通じて、写真という新しい視覚表現が、風景の見え方や構図作成にどのような影響を与えたのかがわかる。写真と絵画を並置する展示構成により、同時代に共有されていた視覚的関心領域を読み取ることができる。

「ジャポニスム」をテーマとする章では、19世紀後半のヨーロッパに広まった日本美術への関心と、モネの制作との関係が取り上げられている。浮世絵に見られる大胆な構図や画面の切り取り方、余白の扱い、視点の高さ、反復といった要素が、同時代の西洋絵画とは異なる視覚的特徴として紹介されている。こうした要素を踏まえ、本展ではモネの作品と関連する表現を並置し、構図や画面構成、反復という手法がどのように共有され、制作のなかで変換されていったのかを紹介している。

展示後半では、同一のモチーフを繰り返し描く連作や屋内風景が紹介される。対象を反復して描くことで、時間帯や光の違いが表現されていることが確認できる。晩年に約40年間定住したジヴェルニーの庭を扱う章を経て、最終章「池の中の世界」では《睡蓮》が展示される。水面に映る空や植物、光を主題とした作品群が紹介され、モネの晩年の制作がまとめられている。



本展では、クロード・モネ没後100周年という節目に、初期から晩年までの制作が、制作地や主題、表現方法の変化を軸に構成されている。絵画作品に加え、写真、日本美術、工芸、映像といった視覚表現を交えた展示を通して、風景をめぐるモネの制作がどのような関心のもとで展開していったのかを、会場で体感することができるだろう。